
可愛いキャラクターとポップな世界観で誰でも簡単にリズムゲームを楽しめる『Pastel☆Parade』と、限界な女の子の社畜生活とキュートアグレッションを描いた『キメキャワ♥限界ビートちゃん!!』。間もなくリリースを控える両作品は同じ開発者、まっともぉんさんによってディレクションされています。「小学生のころからゲームを作っていた」というまっともぉんさんに、ゲーム開発愛を伺いました。
――自己紹介をお願いします。

まっともぉんさん:
インディーゲーム開発者のまっともぉんと申します。本名が「松友」なので、そこからとってまっともぉんと名乗っています。イントネーションは「ポップコーン」と同じです。学生時代からゲームを作っていて、2024年の4月からゲーム業界にプログラマーとして入社しました。今も本業のかたわら趣味でゲーム制作をしています。よろしくお願いします。
――精力的に作品を発表されているまっともぉんさんですが、ゲーム開発はいつから始められましたか。
まっともぉんさん:
昔からパソコンを触る機会が多くて、初めてゲームを作ったのは実は小学生のころです。低学年のときくらいから、周りがニンテンドーDSとかWiiとかで遊んでいるなか、自分は親のパソコンを使って毎日ブラウザゲームを遊んでました。小学校高学年あたりの時に『しょぼんのアクション』(※1)や『青鬼』(※2)といったフリーゲームがすごく流行っていたんです。WiiやPlayStation 3などに比べるとグラフィックはシンプルだったのですが、ゲーム性が尖っていてすごく面白いものを作っているというのに影響を受けて。「このゲームってどうやって作られてるんだろう」と調べたら「個人で作れるの!?」と衝撃を受けて、そこから自分でもゲームを作ってみようと思ったんです。
(※1)『しょぼんのアクション』
日本の開発者ちく氏が制作した2Dアクションゲーム。『スーパーマリオブラザーズ』のパロディのような作風で、予想だにしない罠など高難度なゲーム性が話題を読んだ。初出は2007年、ちく氏のニコニコ動画投稿による。
(※2)『青鬼』
日本の開発者noprops氏が2004年に公開したホラーゲーム。制作ツールはRPGツクールXP。洋館に閉じ込められた主人公が、執拗に追いかけてくる怪物「青鬼」から逃れながら脱出を目指すストーリー。動画投稿サイトでの実況プレイ動画が話題を呼び、多数のメディアミックス展開をした。
――小学生の当時はどんなツールを使われていましたか。
まっともぉんさん:
当時は『WOLF RPGエディター』(以下ウディタ)(※3)というものを使っていました。無料なのですごく助かった記憶があります。
(※3)『WOLF RPGエディター』
日本の開発者SmokingWOLF氏が開発したRPG制作ツール。フリーウェアとして配布されており、無償で利用可能。
――小学生のころから作品を発表することも経験されたのでしょうか。
まっともぉんさん:
親が厳しくて「インターネットって怖いよね」という認識があったので、あまり世界に発信したりはしませんでしたね。当時はクラスメイトが登場するゲームをひたすら作って、それを友達に遊んでもらっていました。放課後にわざわざ家に来てもらって、友達とパソコンを囲んで遊んだのはすごく今でも記憶に残ってますね。
――ゲームを作れる友達がいる環境って、とても羨ましいですね。
まっともぉんさん:
でも、RPGを作るにしても発想が小学生だったので、友達から「俺のスキルは絶対に一撃で敵を倒せるやつにして」みたいな要望があって。それをそのまま反映してたのでゲームバランスなんてあってないようなものでした(笑)それでもすごく楽しく笑えたのでよかったなと思ってます。
――思い出を感じさせるエピソードですね。その後、中学校に上がってからもゲーム制作は続けたのでしょうか。
まっともぉんさん:
いえ、中学生になったあたりで一度ゲーム制作は諦めてしまったんです。理由は3つくらいあって。1つ目に当時、部活動として吹奏楽部に入ったんです。放課後も7時から8時くらいまで練習があるし、何なら土日もお弁当を持っていって活動するんですよ。それくらい忙しい部活だったので、パソコンを触る時間がそもそもなくなってしまいました。
次の理由として、中学生になってから勉強の難易度も上がったので、成績が教科によってまちまちだったんです。特に文系科目に苦手意識があって、社会科とかが壊滅的になっていって。そこでやっぱり親から「パソコンを触るのは1日〇時間までね」という制限を課されたのも時間が取れなかった理由です。

――その年齢ならではの悩みですね。
まっともぉんさん:
最後に、もともとウディタを触っていたのですが、ウディタはRPG制作を目的としたツールであるということもあり、ジャンルに縛られず自分のやりたいことを実現しようと思うとある程度は高度なコード、プログラムを書かないといけないと感じたんですね。だから、中学校に入ったところでウディタを卒業してUnity(※4)に移行したんです。
けど、やっぱりいきなりUnityを触るのは当時の僕にとって難しすぎて。Unityって独自のお作法があって、コードを書くときも「Unityのコードはこう書かなきゃいけない」「C#をただ覚えたら良いわけじゃない」という側面があったんです。そこがやっぱり時間も取れないなかで僕にはハードルが高くて。それで一旦、中学生の間はゲーム制作から距離を置いていました。
(※4)Unity
Unity Technologiesが開発・販売するゲームエンジン。2D・3Dでのゲーム制作が可能で、PCからコンソール機・スマートフォンなどさまざまなプラットフォームに向けたゲーム制作が可能。
――生活の変化とツールの変化で板挟みになって一旦リタイアしたわけですね。その後ゲーム開発を再開したきっかけはありましたか。
まっともぉんさん:
再開をしたのは高校生になってからなんです。進学校だったのですが、推薦入試やAO入試などに向けた対策として「学力以外の+αの部分を伸ばしていこう」という取り組みをしているクラスに入りました。そのなかで授業の一つとして「課題研究」というのがあって、自分の好きなことを研究して発表するという、大学における卒業論文を簡単にしたような取り組みを授業でやったんです。
その課題研究で自分が注目していたのが「歩きスマホの危険性」。当時ニュースとかにもなっていたので「これを研究したら大学入試にも良さそうだ」と思って始めました。その歩きスマホの危険性をどうやって証明しようかと考えたとき、歩いている人間を簡単に3D上でシミュレーションして、正面をちゃんと見ている場合と手元しか見ていない場合でどれくらい周りの人とぶつかるのかを物理演算で計算する、ということがやりたくなったんです。「そういえばUnityって3Dも使えるゲームエンジンだから、あれを使えば実験ができるんじゃないか」と思って。授業のなかでUnityを使わせてもらって、そこで初めてUnityを克服して触ることができたという感じです。実はUnityを再開したのはゲームではなくて研究なんですよね。
当時のまっともぉんさんの投稿
――研究をきっかけとして、そこからゲーム開発にのめりこんでいったわけですか。
まっともぉんさん:
そこからゲーム制作にハマったきっかけがあるんです。ちょうど高校3年生の夏休みくらいに、受験勉強の合間で YouTubeの動画を見てだらだらと過ごしていたんですよ。そのときにYouTubeの生配信で、ある方が「Unity 1週間ゲームジャム(※5)(以下unity1week)の全作品遊びます」という配信をされていて。ふと勉強の合間に見て「なんかめちゃくちゃいろんなゲーム遊んでるな」って思ったんです。
今まで僕が見てきたゲーム実況って1つのゲームを何時間もかけて、何パートにもわたって遊ぶというものばかりだったんですね。だから5分くらいでクリアできるいろんなゲームがあって、しかも1日2日じゃ終わらない数を大量に遊んでいて、そんなに作品があるっていうのにすごく驚きました。調べてみると「unity1week」という1週間でゲームを作るイベントのことを知って、そこで初めて「次のお題から僕も参加してみよう」と思いました。それがゲーム制作を再開したきっかけです。
(※5)Unity 1週間ゲームジャム
ゲームジャムとは、ゲームクリエイター(プログラマー、デザイナー、アーティストなど)が集まり、短時間でゲームを制作するイベント。Unity 1週間ゲームジャムは、フリーゲーム投稿サイトunityroomで開催されるゲームジャム。参加者は出題されるお題にちなんだゲームを1週間の期間内に制作し、投稿する。

――高校生当時からゲームジャムに参加されていたということでしょうか。
まっともぉんさん:
そうですね。初めてのゲームジャム参加が2019年の10月です。『KeySweeper』という、『マインスイーパー』とキーボードをテーマにした作品を制作しました。
――初めてunity1weekに参加されていかがでしたか。
まっともぉんさん:
本当に皆1週間でよくやってるなって(笑)初めてだったのもあって、自分には当時これが限界というか。「参加してる人たちすごいな」って改めて思いましたね。1週間で作るもんじゃないですよ、本当に(笑)
高校生の間にもう1つ作品を作っていて、それが2020年2月の『StayCalator』というエスカレーターの逆走をテーマにした作品です。そのとき大学受験がちょうど同じ週の頭で、入試のために地元の愛媛から岡山まで行ったんですよ。その岡山のホテルに泊まっているときにお題が発表されて、試験を受けながら「どんなゲームを作ろうかな」と考えていて。受験が終わったら急いで愛媛に戻って、開発して発表した作品が『StayCalator』です。
――受験の真っただ中に開発されていたんですね。そこまでしてunity1weekに参加したいと思った動機はどこからきていたのでしょうか。
まっともぉんさん:
やっぱり小学生のときに作ってきたゲームって、リアルの友人からしか感想を聞けなかったんです。それがunity1weekというインターネット上に作品を載せたことによって、作品のコメント欄や、Twitter(現X)のリプライ欄などで感想をたくさんいただくことができて。まだ会ったこともない人に影響を与えて、遊んでもらえたっていうことがすごく嬉しかったんです。それでunity1weekは、通算17回参加してますね。
――17回参加してきて手応えの変化はありましたか。
まっともぉんさん:
最初の頃は「これを作りたいのに1週間じゃ難しそうだな」とか「どうやって作ったらいいか分からない」ということが結構あったんですが、何回も参加していくうちに自分の技術力も当然上がってきますし、「こういうゲームを作りたいときはこういうゲーム設定に落とし込んだらできるよね」と発想できるようになってきました。特にunity1weekを遊ばれるユーザーさんって、ガッツリ遊ぶというよりはサクッと1クリックして遊ぶカジュアルな層が多いので、そういった方にはどういった作品が刺さるかな、という考え方が身に付きましたね。「コツ」というとちょっと上から目線ですけど、そういう当て感がかなり掴めるようになってきたなとは思ってます。

――今年度からゲーム業界に就職されたわけですが、就職されてから個人開発に変化はありましたか。
まっともぉんさん:
熱量自体は変わらずですが、やっぱり1日8時間×5日間で週40時間は本業に使うので、時間の使い方が難しいというのが一番の課題ですね。ただ会社の方にも個人開発をしていることは就活のときから打ち明けていて、入社してからも応援してくれています。なので居心地の悪さを感じることはなく、むしろ東京ゲームショウに出展したときは会社の方が来てくれたりしました。環境としてはベストなところで楽しくやらせていただいてるなと思っています。
ポップでスプラッシュな『Pastel☆Parade』
――まっともぉんさんが現在開発中のゲーム『Pastel☆Parade』がどんな作品か簡単に教えていただけるでしょうか。
まっともぉんさん:
『Pastel☆Parade』はとにかく可愛い世界観とキャラクターが登場する、簡単操作でどの世代でも楽しめるリズムゲームです。もともとunity1weekで「ふる」というお題のときにリリースした『Let’s Splash!!』という作品を原型にして制作しています。

――閲覧数が4万6000件を超え、unity1week「ふる」のランキングで総合1位を獲得した『Let's Splash!!』の増補版が出るわけですね。原型となった同作はアート担当のboneさん(※6)とチームを組んで開発されましたが、タッグを組んだきっかけはありましたか。
まっともぉんさん:
もともと僕はunity1weekを知ったきっかけがゲームのプレイ配信だったので、大学に入ってから自分もunity1weekのゲームを遊んで配信するという活動をやっていたんです。その配信を何回もやっていくなかでクリエイターの方ともつながりができていて、『Let’s Splash!!』で組んだboneさんという方も配信である程度面識のあった方でした。
当時unity1weekは基本的にソロで参加していたんですけど、ソロで参加する中で自分の限界というか得意・不得意が分かってきたんです。特にシナリオがあるゲームやアートから感情に訴えかける作品が自分1人では無理だな、というのを痛感していて。「ぜひ次のunity1weekはアートができるほかの方と組みたいな」と思っていたんです。そこでboneさんがいつも素敵な絵で自分にはできないゲームを作っていたので、お声がけしてチームを組んだという流れでした。
(※6)boneさん
日本のゲームクリエイター、イラストレーター。『Let's Splash!!』でイラストを担当し、『Pastel☆Parade』でも引き続きアート面を担う。

――チームを組んで、どのような流れでゲームを制作されましたか。
最初の1日目~2日目は、お題の「ふる」にもとづいたアイデアを考える時間でしたね。最終的には「炭酸を“振る”」というアイデアに着地したのですが、そこまでには没になったいろいろなアイデアがありました。
アイデア出しのときに使った、大枠のジャンルというのがあるんです。『Let's Splash!!』は「ノリノリ系」で、とにかく操作をテンポよくやって楽しくなってもらうゲーム。ほかにはクリアタイムやスコアを競うような「ランキング系」のゲームも考えました。たとえばカクテルを“振る”ことでお客様からのオーダーをいかに早く作って渡すか、といったアイデアが出ましたね。あとは「ステージクリア系」を考えていて、雨が“降る”のを傘で防ぎながら何かをする、という案とか。
それからboneさんがすごくアートとシナリオを得意とする方だったので、ノリノリ系とはまた違ったじわーっとくる「エモい系」のゲームを作りたいという気持ちがあって、“振る”にちなんで振り子時計をモチーフにしたループ物のお話のゲームも考えたりしたのを覚えてますね。
――実際に「炭酸を振る」というテーマに決まってから、boneさんにイラストを一任してアニメーションをまっともぉんさんが担当したとうかがっています。モーションのこだわりポイントを教えていただけますか。
まっともぉんさん:
緩急のつけ方が大事だと考えています。具体的には、手や顔などあらゆる動きはキーフレーム(※7)を打って、この角度からこの角度まで動いてほしい、という風に作っていくんです。でも、ただ点を打つだけだと動き方が直線的で単調になってしまうんですね。Unityではその動き加減にカーブをつけることができて、ゆっくりじわっと変わっていったり、動きが激しい瞬間に一番ピタッときたり、その加減に気を遣って作りました。
(※7)キーフレーム
アニメーションを作成する際に使用する機能。タイムライン上にキーフレームと呼ばれる点と点を打つことで、その間にアニメーションを設定することができる。

――『Let’s Splash!!』は結果としては総合ランキング1位になりましたが、当時はどんな気持ちでしたか。
まっともぉんさん:
純粋に嬉しいって感想でした。ただ「嬉しい」という気持ちはありつつ、当時の制作に対する心境としてはそこまでランキングは意識していなかったんです。unity1weekのランキングって当然それを遊ぶ層にチューニングしないといけない要素もあったり、ほかの作品のクオリティもあったり、実力以上に左右してくる外部要因が多いので、ランキングは当時全然意識していなかったんですね。ただ純粋に出したゲームがいろんな方に評価された結果、1位になって嬉しいっていう感想でした。
――高い評価を得た『Let's Splash!!』ですが、その増補版となる『Pastel☆Parade』はどのようにボリュームアップされているのでしょうか。
まっともぉんさん:
『Let’s Splash!!』は「炭酸を振る」という1つのアクションゲームだったのですが、『Pastel☆Parade』ではほかにも簡単な操作で遊べるゲームをたくさん用意しました。もう1つ、サウンド面での進化も挙げられます。というのも『Let's Splash!!』ではサウンドにとても苦労したんです。ゲームの雰囲気にあった著作権フリーの曲を調べるのが本当に大変で、unity1weekの期間中も何時間とかかってしまったんですよね。そのため『Pastel☆Parade』の開発にあたっては1から楽曲を制作することにしました。サウンドを作ってくださる方にたくさんお声がけして、各ミニゲームや世界観にあったサウンドを作っていただいています。
――サウンド面でかなり豪華な顔ぶれになってるんですね。
まっともぉんさん:
そうですね。今回の『Pastel☆Parade』はディレクター兼プログラマーの僕が1人、アート・シナリオのboneさんが1人、あと残りサウンドが8人。最近プログラマーさんももう1人入ったので、合計11人のメンバーで制作しています。
――追加されたミニゲームでオススメはありますか。
まっともぉんさん:
当然全部大好きでオススメなのですが、あえていうと魚釣りのリズムゲームが個人的に好きですね。順番に魚を釣り上げていくゲームなのですが、時々アクセントとして全員で釣り上げるタイミングがあって、その直前に画面いっぱいにカットインの演出が広がったりするんです。それから最近の開発で入れた機能として、釣り上げた魚が船の後ろにどんどん積まれていく演出があるんですよね。それがやっぱり見た目的にもワクワクするし、物理演算で魚が積まれていくので、毎回絵柄も変わって唯一無二の体験なのですごく気に入っています。
――改めて『Pastel☆Parade』の魅力をお願いします。
まっともぉんさん:
『Pastel☆Parade』は本当に可愛いキャラクターと世界観で、簡単操作でどの世代でも楽しむことができるリズムゲームです。とにかくキュートでポップなゲームに仕上がっているのでぜひ製品版をお楽しみにしてください!
『キメキャワ♥限界ビートちゃん!!』はこうしてキマった
――同じく、まっともぉんさんが開発中の『キメキャワ❤︎限界ビートちゃん!!』についてもどんなゲームか教えていただけるでしょうか。
まっともぉんさん:
タイトルにもある通り、工場勤務の社畜で限界な女の子ビートちゃんが、テンポよくビートにのってお仕事しながらお金を稼いで大出世を夢見るゲームです。工場での退屈なリズムゲームを続けていると、特定のタイミングで「ワンダー」状態になり、ノリノリで可愛いマスコットたちを潰すことができます。こちらも初出は2024年のunity1weekです。

――『キメキャワ❤︎限界ビートちゃん!!』はサウンドのつよみーさん、アートのRyuiさんと3人チームで制作されていますが、メンバーが集まった経緯を教えていただけますか。
まっともぉんさん:
まずはRyuiさんと先にチームを組むことが決定しました。『Let's Splash!!』と同じくいろいろな方と組んでみたいと思っていたので、すでにたくさんゲームを出されていて毎回素敵なアートで作品を仕上げている、しかも配信で面識のあるRyuiさんに僕からお声がけをしたんです。それから作ってみたいゲームを考えるなかで、やっぱりサウンドもこだわりたいと考えて『Pastel☆Parade』でも加入していただいた、つよみーさんにお声がけして3人でチームを組むことになりました。
――『キメキャワ❤︎限界ビートちゃん!!』では最初からオリジナル楽曲が採用されていますよね。サウンドにこだわりたいという思いはずっとあったのでしょうか。
まっともぉんさん:
はい。Ryuiさんと組んで最初の案出しをしている時点で、癖(ヘキ)の詰まったゲームになりそうだなという感じがしていたので、世界観は大事にしたいと考えました。その世界観に合った曲を探すのにコストを割くよりも、最初からマッチした楽曲を作曲していただく方が掛け算式により火力の高いゲームになると思って、最初からオリジナル楽曲を採用したんです。
――今お話にあった通りかなりクセのある世界観ですが、どのようにコンセプトを固められましたか。
まっともぉんさん:
もともと案出しをしているときに、ふわっと上がってきたワードとして「キュートアグレッション」というのがあったんです。可愛いものをいじめたいとか、そういう意味がある言葉ですね。キュートアグレッションを今回は作ってみたいよね、という話が出たので、それを軸にしました。
システムに関しては僕が決めた部分が大きいんですが、『Let’s Splash!!』で感じた課題として、どれだけ作りこんで面白い作品になっていても、「1曲を演奏する」というゲームなので一度パーフェクトをとってしまうとやることがなくなってしまうんです。特に上手い人が遊ぶと1曲1分ちょっとなので、5~6分くらいで遊ぶものがなくなってしまうんですね。そのため、今回作るゲームは無限に遊べる、何回でも繰り返して遊べるゲームがいいなと思っていました。そういう思考で考えていたときに、「クリッカーゲームなら無限に遊べる」というのをふと思いついて。そこで僕の好きだったリズムゲームとかけ合わせて、今の『キメキャワ♥限界ビートちゃん!!』のシステムができました。
――なるほど。ちなみに「ビートちゃんが社畜である」というアイデアはどこから出たのでしょうか。
まっともぉんさん:
また僕の昔の作品の話になるのですが、『Let’s Splash!!』の1つ前に出した『Let’s DANCE!!』というすごくシンプルなゲームがあったんです。それは「キャラクターの上にカーソルを綺麗に揃えると急にキャラクターたちが踊り出して、ゴリゴリのEDMが鳴ってなんか楽しい」っていうのを5、6回繰り返すだけのゲームなんですよ。それでもランキングの結果や評判がめちゃくちゃ良かった、という経験があって。そこで得た感覚として「静と動、激しい部分と静かな部分の緩急」をすごく大事にしたいなと思ったんです。『キメキャワ❤︎限界ビートちゃん!!』ではキュートアグレッションがテーマで、楽しく可愛い子たちを潰すという体験をするから、その対比として地味な場面で楽しくないことをダラダラとやるっていうのをやりたいと考えて、あの工場で働くことになりました。

――論理的に考えた結果ビートちゃんが社畜になったわけですね。『キメキャワ❤︎限界ビートちゃん!!』も増補版がリリースされるわけですが、オリジナル版と比べて強化された部分を教えていただけますか。
まっともぉんさん:
『キメキャワ♥限界ビートちゃん!!』は、ビートちゃんがいろんな人に愛されているキャラクターだと感じています。そのビートちゃんの人生やストーリーをより拡張して皆さんにお伝えできるような、そういうゲームにしていきたいです。ゲーム性自体はunity1weekのものからそこまで変えるつもりはなくて、あくまでビートちゃんの人生を深掘りできるような体験を重視して拡張しています。
――ありがとうございます。ちなみに、まっともぉんさんが開発中に一番限界だった時のエピソードを教えていただけますか。
まっともぉんさん:
割と何回もあるのですが……。やっぱり限界になるのは、リアルイベント出展の前日です。事前にビルドを提出しておくタイプのイベントではその限りじゃないんですが、自分でパソコンや機材を持ち込むときは「ビルドの締切=イベント開始の直前」までなんですよね。なので直前になればなるほど「もっとあれをやりたい、これをやりたい」とか「これ間に合ってないよね」とかタスクが浮き彫りになってくるので、イベント前に熟睡できたことは今まで1回もないです(笑)毎回徹夜で限界になりながら作ってます。ギリギリまで改善しますし、なんなら当日お客さんに遊んでもらってる途中でも気になるところがあったらビルドを更新したりしてしまいます。
――改めて『キメキャワ❤︎限界ビートちゃん!!』の魅力をお伝えいただけるでしょうか。
まっともぉんさん:
とにかく限界な女の子ビートちゃんが、テンポよくお仕事しながらお金を稼いで大出世を夢見るゲームです。退屈な単純作業の中でも楽しみや生きがいを見つけて強く生きるビートちゃんの人生をぜひ製品版で応援してあげてください。

ゲームの嗜好はわりと修羅?
――これまでの人生でまっともぉんさんに影響を与えた作品を5つ教えていただけますか。
まっともぉんさん:
すごく難しい質問ですけど、影響を受けたというか今でもすごく印象に残っているゲームを時系列順に挙げていきますね。
まず1つに『ラチェット&クランク』シリーズ(※8)です。当時は幼稚園児とか小学生のころだったと思います。3Dの世界でド派手な武器を使って敵と戦う、メカアクション系のゲームです。このゲームの何が好きかというと、使える武器が何十種類もあって、そのひとつひとつが使っている途中でレベルアップするんですね。そのレベルアップの演出が当時すごく大好きで。画面全体にド派手なエフェクトが出て、真ん中でその武器が回転しながらドン・ドン・ドン・ドン! って一気にアップグレードされていって、かつ性能もめちゃくちゃ強くなるんです。そういう演出やゲーム性も含めて『ラチェット&クランク』は大好きな作品ですね。シリーズの作品は多分全作品遊んでます。
(※8)『ラチェット&クランク』シリーズ
ソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)が発売したアクションゲーム。伝説の種族の生き残り「ラチェット」と相棒のロボット「クランク」がさまざまな惑星でミッションをクリアしていく。
――子どもながらにワクワクする演出が印象に残っているんですね。ほかの作品はいかがですか。
まっともぉんさん:
2つ目は人生の影響でいうと『Minecraft』(以下マイクラ)ですね。マイクラを始めたのは小学5年生くらいなのですが、やっぱりゲーム自体が面白くて。もちろん最初は1人で遊んだのですが、マルチで遊ぶのがすごく楽しかったんです。ほかの人と初めてボイスチャットをしたのもマイクラですね。
当時僕はインターネットでマイクラのサバ主(サーバー主)をやっていて。今はなき「Minecraft非公式フォーラム」という、フォーラム形式でいろんな人が「サーバーを作ったので来ませんか」と投稿できる掲示板があったんです。小学5~6年生くらいでそこに「サーバーを作りました。誰か遊びませんか」と投稿してましたね。移り変わりが激しい時期ではあったので同時接続数ではないのですが、累計でいうとメンバーが100人ぐらい集まったんです。同じ小学生はもちろん、大学生、社会人、中には親子で参加してくれる方などもいて。色々な方と一緒に遊ぶことができてすごく楽しかったです。マイクラって元々は1人で作られたゲームじゃないですか。そういった意味でも「自分も何か大ヒットする作品をいつか作りたいな」という影響を少なからず受けてるかなと思います。
――今、個人開発をしている根幹にもつながるわけですね。
まっともぉんさん:
明確に意識したわけではないですが、潜在的に「ああいうゲーム作れる人ってすごいよな」という部分で絶対に影響を受けてると思います。
3つ目は今までと系統が変わります。フリーのFPSゲームで今はもうサービスが終了しているのですが、『サドンアタック』(※9)というゲームがありました。このゲームが中学生の僕のなかでは一番盛り上がっていて、めちゃくちゃ遊んでいたんです。何が楽しかったかを今思い返すと、複数人対複数人で戦うタイプのFPSゲームで、今でいうと『VALORANT』のようなゲームの原型に近い感じだったんですよね。
このゲームを遊ぶときにボイスチャットで他の人と連携しながら、しかもそれを夜遅くまでやる、という体験がすごく印象に残っていて。しかも当時仲の良かった人たちと一緒に『サドンアタック』以外のほかのゲームも遊んだりして、すごくゲームスキルが鍛えられた時期でした。そこを経たあたりから満遍なくどのゲームでも遊べるようになって、上手くなってきたなっていう実感があって。当時遊んだメンバーにはすごく感謝してます。
(※9)『サドンアタック』
韓国のオンラインゲーム会社GameHiが開発したオンラインマルチプレイFPS。1ルーム最大16人が参加し、チーム対抗のさまざまなゲームモードで争う。日本では2019年までサービスが続いていた。
――友達と遊んだ思い出のゲームでもあるし、今に活きる基礎ゲーム力が鍛えられるきっかけとなったんですね。
まっともぉんさん:
そうですね。このゲームで出会った仲間と一緒に遊んだゲームで、スキルはすごく身についたなという感覚があります。仲間内でアドバイスをもらいながら、という環境だったのですごく鍛えられたなって思います。
次に影響があるのはフロム・ソフトウェアさん(以下フロム)から出ている『SEKIRO:SHADOWS DIE TWICE』(※10)(以下SEKIRO)ですね。特にフロム作品がそういう傾向にありますが、すごく難しいじゃないですか。それまで僕のなかでゲームってユーザーフレンドリーでユーザーが遊びやすいもの、とにかくユーザーを楽しませるものだと思っていたのですが、『SEKIRO』はそんなことないんです。「次、これはクリアできるか? これはどうだ?」と次々に課題を与えてくる感じで、最初は「こんなゲーム許されるんだ」という率直な感想だったのですが、いざ遊んでみるとすごく楽しかったんですよね。めちゃくちゃ難しいところを何時間もかけてクリアした時の快感。しかもそこで終わりかというとそうじゃなくて、次のボスはまた別の難しさがあって、その繰り返しでゲームができていて。ゲームデザインとしてもすごく新鮮でしたし、遊ぶ体感としても自分の成長を実感できて楽しいゲームでしたね。
そこからフロム作品の『ELDEN RING』や『ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON』も全実績解除するくらいには遊びこんでますね。ゲームスキルもちゃんと『サドンアタック』で身についていたので。
(※10)『SEKIRO:SHADOWS DIE TWICE』
フロム・ソフトウェアから2019年に発売されたアクションアドベンチャーゲーム。プレイヤーは戦国時代末期の日本で忍として戦いに挑む。高い難度が評価を呼び、世界累計販売本数1000万本を突破した。
――経験が活きていますね。
まっともぉんさん:
活きてます(笑)。もう1つは『Pogostuck:Rage With Your Friends』(※11)(以下Pogostuck)という、ホッピングで山を登るゲームです。俗にいう登山ゲームというジャンルで『Getting Over It with Bennett Foddy』(※12)や『Jump King』(※13)などの系統と似たゲームですね。
いわゆる登山ゲームって1回でも失敗するとすごく手前の地点まで戻されてしまうから、失敗せずにひたすら繰り返さないといけないというゲームなんです。その中で『Pogostuck』がすごく大好きな作品で。これは当時、配信をしながら全部クリアまでしたんですけど、本当に面白すぎて40時間ぐらいぶっ続けでそのまま遊んでクリアまでいった作品です(笑)大学生だったので無茶ができたんですよね。授業がない日に配信を始めて、まさか40時間もかかるとは思ってなかったんですけど。
(※11)『Pogostuck:Rage With Your Friends』
ドイツのゲームクリエイター、Hendrik Felix Pohl氏が2019年にリリースした2Dアクションゲーム。プレイヤーはホッピングを使いながら高難度なステージに挑む。
(※12)『Getting Over It with Bennett Foddy』
ニューヨークに拠点をおく開発者Bennett Foddy氏が開発し、2017年にリリースされた。下半身が壺に埋まった男がハンマーを使って高難度な登山に挑むゲーム。日本では『壺おじ』の愛称で知られる。
(※13)『Jump King』
スウェーデンのNexile社が開発し、2019年にリリースされた縦スクロールアクションゲーム。プレイヤーはボタンを押す長さで飛距離の変わるジャンプを駆使して、縦に続くマップの頂点を目指す。
――かなり高難度で知られるゲームですが、何がそこまで刺さったのでしょうか。
まっともぉんさん:
レベルデザインを作るときの難易度曲線の考え方がすごく参考になるなと思っているんです。ただただ山登りをストレートに難しくしていくわけじゃなくて、一回難しいところがあって、その次に少し簡単なところがあって、さらに次はもっと難しいところに行って、というのが繰り返されていて。『SEKIRO』と被るところもあるんですけど、『Pogostuck』も自分の実力、成長を実感できるゲームになっているんです。それこそ最初はゲームスタートからクリアまで40時間かかったんですけど、2回目は8分とか9分、早いときは5分くらいでクリアできるようになっているんです。これ以上に自分の成長が実感できる作品はないだろうと思っています。そういう意味でめちゃくちゃ影響を受けて印象に残っているゲームですね。
――お話をうかがっていると、かなりハードなゲームの嗜好ですね。
まっともぉんさん:
難しいゲームをめちゃくちゃ遊んでるからこそ、たまに「簡単」の基準がわからなくなることがあって、そこは人一倍気をつけてゲーム開発をしています。油断するとすぐ難しいゲームになっちゃうので(笑)。『Pastel☆Parade』や『キメキャワ♥限界ビートちゃん!!』はリズムゲームですが、今後もしアクションゲームを作る機会があったらすごく緊張しますね。むしろアクションゲームを作る時は難しいゲームが好きな人にターゲットを絞って作ると思います。
掘っても掘ってもゲームの話!
――まっともぉんさんといえば菜の花とショベルカーのアイコンで定着していますが、これは何の写真なのでしょうか。
まっともぉんさん:
これは拾ってきた画像じゃなくて自分が撮った写真なんです。愛媛にいるころに撮ったんですが、土手の近くを自転車で走っているときに、菜の花畑にショベルカーがあったんですよ。自然が広がっているところに人工物がドカンとある構図にすごく惹かれて自転車をそこで止めちゃって。そこでふと撮った写真ですね。構図的にも上の方は水色なのでメリハリがあっていいなって思ってます。高校3年生でunity1weekに初めてゲームを出したときにこのアイコンでアカウントを作ってからずっとこのアイコンなので、迂闊に変えられなくなりました(笑)。
――菜の花といえば『Pastel☆Parade』にも登場する緑髪の女の子、「菜の花もぉんちゃん」はまっともぉんさんの作品群における看板キャラクターですが、推しポイントを教えていただけますか。
まっともぉんさん:
やっぱりグリーンとイエローのカラーリングが大好きですね。配信中に「まっともぉんのアバターを作ろうぜ」という流れがあって、視聴者さんにヒアリングされて作られたキャラクターになってますね。僕の好きなステータスが詰まっているキャラクターになっていて、細かく言うと身長の設定とかもあります。

――まっともぉんさんのご趣味を教えてください。ただし、「残りHP100のときに打ち込む趣味」「残りHP50のときに楽しむ趣味」「残りHP1のときにする趣味」に分けて教えてください。
大前提として、僕の趣味はやっぱりゲーム制作なんですよね。プレイするより作る方が好きです。だから基本的にこれから出てくる趣味も、ゲーム制作に関連するものにはなっちゃうんですけど。一番元気な時にやりたい趣味でいうと、僕がいま興味があるのは楽曲の制作です。Cubase(※14)というDTMソフトをつい何か月か前に買って、サウンドの音源も買いました。
(※14)Cubase
Steinberg社が販売する楽曲制作ソフト。作曲、録音、編集、マスタリングなどをおこなえる。
――新しい分野への挑戦かと思いますが、何かきっかけはありましたか。
まっともぉんさん:
これも多分、昔から続いている興味だと思うんです。やっぱりまず大前提として中学生のころ吹奏楽部だったので、楽譜は読めるし音も分かりはするんですよね。なのでもともと興味はありました。当時の吹奏楽部に男子が5人いたんですけど、吹奏楽部としての演奏のほかにその5人でバンドを組んで、そのとき好きだったアニソンのメドレーを文化祭で演奏したりして、そのときに楽譜を作ったりもしていたのですごく楽曲制作が好きでした。
楽曲制作活動は中学生のときだけで高校のときはストップしちゃってたんですけど、『Pastel☆Parade』を作り始めてからサウンドスタッフさんの作る楽曲の監修をする機会が増えてきたんです。そのなかで毎回自分の頭の中にある理想を伝えるために、リファレンス楽曲を探して提示しているんですね。「海っぽい曲がいいな」と思ったら海っぽいサウンドを何十、何百曲のなかから探して、いくつかURLを貼ったりして。そこからサウンドさんに聞いていただいて、専門の言葉で「〇〇みたいな感じですか」とキーワードをいただいて、もう一回検索して「これでいける」というやりとりをしているんです。
――かなり時間がかかりそうなやりとりですね。
まっともぉんさん:
そういうことをしている間に「自分でも楽曲を作ってみたいな」という思いが強くなってきたんです。とはいえ先ほど時間の使い方で悩んでいるというお話をした通り、今は時間も体力もない状態なので、あまり楽曲制作にフルコミットはできていません。残りHPが100まで回復した時は楽曲制作にチャレンジしてみたいなと思ってます。
――元気なときこそ新しい分野にチャレンジするということですね。HPが50のときはいかがですか。
まっともぉんさん:
50のときこそゲーム制作をしているなっていう感じがあります。やっぱり一番好きなのがコードを書く作業ですね。コードを書いて動くものを作るときや、書いたコードで何か画面に変化があったときが一番楽しいですし、アートさんやサウンドさんが作ってくださったアセットを組み込んでそれが画面に反映されたときが一番やりがいを感じますね。
――画面に変化があるとやり甲斐があって楽しいですよね。HP1のときはいかがですか。
まっともぉんさん:
HP1のときの趣味は2つあるなと思っていて。さっきとは逆になってしまうんですけど、1つはコードのリファクタリング(※15)ですね。HPが少ないときほど新規の実装とか組み込みとかってすごく体力を使うからしんどくて。そういうときこそ、リファクタリングって今あるコードを綺麗にしていく作業なので体力的にはそんなに消耗しない感覚があるんです。それでもゲーム制作としては前に進んでいる、見た目に変化はないけど今後のコードが書きやすくなるところがいいですね。何よりリファクタリングってエンジニアとしてはすごく達成感のある作業なので。本当にHPがない死にかけのときはリファクタリングをして今後のために力を溜めるみたいな、そういう動きをしています。
(※15)リファクタリング
プログラミングにおいて、問題なく動いているコードを整理整頓して、動き方を変えないままより分かりやすいコードにすること。なおまっともぉんさんは、ほかの人のコードをレビューしてリファクタリングの手助けをする活動もおこなっている。

――エンジニアならではの感覚ですね。
まっともぉんさん:
リファクタリングが大好きなので許されるならずっとリファクタリングしていたいんですけど、ゲームが進まないじゃないですか(笑)。なのでHPが溜まってきたらゲーム制作の方にいくんですけど、体力が少ないときはリファクタリングに逃げがちですね。
あと同じくコード系でいうと、開発をより便利にするツール制作もHPが少ないときにやってしまう行為ですね。最近の共同制作のなかだと、Unity上でエディタ拡張というものがあって、自分でプログラムを書いて好きなボタンを出せるウィンドウを作ることができるんです。そこでゲームのデバッグがしやすいように、一つボタンを押すだけですぐ『Pastel☆Parade』のバレーボールのリズムゲームが始まるボタンとか、『キメキャワ❤︎限界ビートちゃん!!』ですぐ特定のリズムゲームが始まるボタンを作っていますね。もしくは自動で勝手にリズムを刻んでくれる用のトグルボタンとか、そういうデバッグ用の便利機能をつい作ってしまいます。
――やはり開発を便利にする行為に没頭してしまうんですね。
まっともぉんさん:
最近作ったものだと、共同制作をするときにアートやサウンドなどの素材をGitHub(※16)というツールを使って管理しているんですけど、そのGitHubってエンジニアじゃない人からするとすごく扱いにくいんです。そこで最近作ったのが、エディター拡張からGitHubの操作ができるツールです。素材を変更したファイルがあるときにUnity上でボタンを押すと、自動でリモートのサーバーに飛んでいってほかの人と共有できるんです。
そういう仕組みをUnityの中に作ったりしています。ほかの職種の方、自分以外の方の開発やクリエイティブをサポートするツールを作る行為は個人的に楽しくできる作業ですね。HPが少ないときにこそそれをやって、自分のゲームの進捗はなくても周りにバフがかかるなら許されるかなと思って(笑)。リファクタリングとツール制作は黙々とできちゃうので残りHP1の時にやりがちですね。
(※16)GitHub
ソフトウェア開発用のプラットフォーム。エンジニアがソースコードなどを公開して、履歴を残しながら更新したり、自分以外のエンジニアに修正してもらったりすることができる。

――結果的にゲーム全体の制作に役立ちますよね。
まっともぉんさん:
いまGitHub上に公開されているものだと、僕の作ったライブラリが20個くらいあるんです。GitHubを制御するツールもあるし、『Pastel☆Parade』や『キメキャワ❤︎限界ビートちゃん!!』の音楽のビートをとる仕組みとして『MornBeat(もぉんビート)』というライブラリがあったりします。翻訳作業をする時にスプレットシートを使うことが多いので、スプレッドシートのデータをUnityで扱えるようにインポートするツールも『MornSpreadSheet(もぉんスプレッドシート)』や『MornLocalize(もぉんローカライズ)』として公開されています。会社でも似たようなことをしていますね。
HP1のときの趣味がもう1個あるんですけど、これらの作業を作業配信にするっていうのが趣味です。本当にしんどいときって何もできなくなっちゃうんですよね。すごく怠惰になってしまうので、そういうときに配信して自分の画面を晒すんです。晒している以上はダラダラYouTubeを見たりTwitter(X)のタイムラインを眺めたりするわけにはいかないじゃないですか。自分を追い込むというか、HPが少ないときこそ配信する時間を無理にでも作るっていうのは、趣味というより手法かもしれないですが、残りHPが少ないときほどやってますね。
――趣味について聞いてみましたが、全部ゲーム開発の話でしたね。強いていえば、ゲーム開発以外の趣味は何かありますか。
まっともぉんさん:
考えてみるとゲーム制作しかしていないんですよね。だいぶ呪われてるかもしれないです。強いて言えばゲームイベントの出展でしょうか(笑)でも、趣味って時間があるときにふとやってしまうようなことですよね……。
――開発に疲れたときはどうやって気分転換していますか。
開発に疲れたときはほかのプロジェクトの作品を作ってるんですよ(笑)。やっぱり会社でもゲームを作っているし、個人でもたくさんゲームを作っているので、開発に疲れたら他のプロジェクトの作品に移ると1回脳がリフレッシュされるんですよね。やる作業も内容も変わってくるので。
――外出などはされないですか。
まっともぉんさん:
最近でいうと開発することが多すぎて、ほかのことをする時間がないんだと思います。ひたすら開発しているし、やることがあるからこそ趣味って呼べるものに到達する時間がない。なので一定のリリースも終わって、かつ次の作品に取り掛からない時間が生まれたとしたら趣味っぽい何かに目覚めることはあるかもしれないです。
――果たしてそんな日は来るのか……。現在は『Pastel☆Parade』と『キメキャワ♥限界ビートちゃん!!』で大忙しかと思いますが、いつか作りたいゲームはありますか。
まっともぉんさん:
実は『PARRY KING』(※17)というすごく難しいゲームを作りかけていて、それを完成させたいです。『SEKIRO』に影響を受けて制作している作品ですね。『Pastel☆Parade』と『キメキャワ❤︎限界ビートちゃん!!』を本格的に作ることになって『PARRY KING』の方は一旦休止というかたちになったので、諸々が落ち着いたらまた細々と作りたいなと思っています。
(※17)『PARRY KING』
まっともぉん氏が開発中の3Dアクションゲーム。ボクセルアートで描かれた世界で、敵の攻撃をタイミングよく弾きながら戦うボスラッシュスタイルが特徴。

――『PARRY KING』は『SEKIRO』がルーツだったんですね。
まっともぉんさん:
そうですね。『SEKIRO』を遊んで僕のなかで好きな部分と苦手な部分があったんです。もちろんアクションや難度調整に関してはあれ以上ないというか、完成された作品だと思います。一方で『SEKIRO』の苦手なところがフィールド探索なんですよ。1回ボスに負けたらもう一度同じボスに挑むために、雑魚敵を無視しながらボスまで走るのが苦手なんです。それを別のかたちにデザインできないかな、と思って作った『PARRY KING』はリトライがすぐできるボスラッシュゲームとして作っています。
――探索が苦手なユーザーには嬉しい話です。
まっともぉんさん:
『PARRY KING』に関する嬉しいエピソードでいうと、去年イベントで『PARRY KING』を展示していた時期があったんです。丁度room6スタッフのAchamothさんがブースに来てくれたのですが、すごくアクションゲームに苦手意識をもっていて、「アクションゲームは自分には絶対刺さらないだろうな」と思っていたらしくて。
そこで『PARRY KING』を遊んでいただいたときに、すごく難しいゲームなので初見ではもちろんクリアできなかったのですが、試遊している10分くらいの間にリトライを繰り返してだんだん上達していったんです。最終的にすごく楽しんでもらうことができて、「アクションゲームの楽しさが初めて『PARRY KING』で分かったよ」と言ってもらうことができました。そのときすごくゲームを作っている意義を感じましたね。ターゲットは難しいゲーム好きのつもりだったけど、意外と「アクションゲーム苦手かも」っていう人に「実はそんなことないんだよ」となるきっかけになったと感じて嬉しかったんです。だから『PARRY KING』は作りきりたいなと思ってますね。
――まっともぉんさんは人を喜ばせるのが好きなのだと感じました。
まっともぉんさん:
そうですね。最近会社で「将来は何をしたいの?」「そもそもどうしてゲームを作りたいの?」と聞かれる機会があったんですけど、自分の中でしっくりくる回答があったんです。自分がゲームを作る理由は、「自分のファンを作るため」というのが一番根本にあると思うんですよね。お金を稼ぎたいわけではなくて、とにかく自分のファンを作ろうと思っていて。だから配信もやるし、周りのためにツールを作るのも同じ制作仲間から「作ってくれたツールのおかげで開発しやすくなったよ」と言ってもらうのが嬉しいからだったりします。イベント出展に積極的に行くとか、すべての活動の源流は「生きている間に自分のファンをたくさん作りたい」という思いがありますね。
――実は、起業を考えていたりしますか。
まっともぉんさん:
いつかは起業も視野に入れていますね。ゲームイベントに出展していると、やっぱり本業をやめてインディーゲームに命をかけている方々もいるじゃないですか。それを見るとその熱量に感化されて「いいな」と思うんです。とはいえやっぱりある程度の貯金もない状態で飛び出すのはさすがに無謀ですよね。リスクマネジメントはしておきたいので、しばらく貯金をしたり実績を積んだりするのが目標です。いずれは独立して起業に挑戦するのは面白そうだな、と将来設計を考えてますね。
――まっともぉんさんの今後の展開が楽しみです。ありがとうございました。
まっともぉんさん:
『Pastel☆Parade』と『キメキャワ♥限界ビートちゃん!!』はそれぞれのSteamページからウィッシュリストに追加可能です。応援よろしくお願いします!
この記事を書いた人
聞き手:ササン三(room6)
編集:ササン三(room6)
校正:fukushima(room6)
デザイン:高市(room6)