room6が開発・運営するゲームアプリ『ローグウィズデッド』。Google Play ベスト オブ 2023 ゲーム インディー部門大賞に輝いた本作の魅力のひとつは、活き活きとしたドット絵で描かれるキャラクターと世界観でしょう。そのドット絵を手がけるアーティストの1人が、room6社員の玉ねぎ修字(しゅうじ)さん。ゲーム業界に入る前には学校の先生として勤め、また書家としても人気のフォントを手掛けるなど、異色の経歴の持ち主である玉ねぎ修字さんにお話を伺いました。
──まずは自己紹介をお願いします。
玉ねぎ修字さん:
room6で主にデザイナーをしています、玉ねぎ修字と申します。room6に入ったのは去年の1月からですが、それ以前のフリーランスのころからお声がけをいただいて、ドッターとして開発に関わらせていただいております。今は主に『ローグウィズデッド』の開発に参加してる、って感じですね。
──『ローグウィズデッド』では基本、ドッターのお仕事が中心でしょうか。
玉ねぎ修字さん:
そうですね。ドッターがメインですが、アート全般のディレクション的なこともやりつつ、PVやイベント出展などのプロモーションも携わっております。Discordのコミュニティ運用など、チーム環境を整えるような仕事もしていますね。
──「ドッター」という肩書きには収まらない、幅広い業務内容ですよね。
玉ねぎ修字さん:
「ドッター」の仕事は1割くらいかも知れません(笑)管理職のような状態ですね。
──サブディレクター的なポジションですよね。そもそもチームの初期メンバーだから、というのもあるんでしょうか。
玉ねぎ修字さん:
koheiさん(※1)とウマが合ったというのが大きいと思います。koheiさんがゲーム作りに集中できるように補佐的なことをいろいろやるようになったというか、自然な役割分担があったと思います。
(※1)koheiさん
『ローグウィズデッド』ゲームディレクションを務めるプログラマー。過去作に『ことだま日記』など。
──koheiさんとお仕事をされて、どういう所がやりやすかったですか。
玉ねぎ修字さん:
koheiさんにはゲーム開発に対するエゴがちゃんとある、という所ですね。こうしたい!っていう理想があって、しかもそれを人と対話することでテーマとして深めていくことができる。koheiさんと話していると話がどんどん発展していって、楽しいんですよね。
──対話していく中で、生まれてくるものがあると。
玉ねぎ修字さん:
そうですね。どんどん話の解像度が上がっていくというか。そこが一番大きいと思います。
──まずは”本職”である「ドッター」の部分について深く掘り下げて行こうと思います。『ローグウィズデッド』で手掛けられたドット絵の中で、印象的なものはありますか?
玉ねぎ修字さん:
一番気に入ってるのはプリンセスナイト(※2)ですね。僕が神クラスの兵士で最初にオリジナルで作ったのがあのキャラクターなので、思い入れもあります。人気のキャラクターになったので、デザインした身としても嬉しくありますね。
(※2)プリンセスナイト
『ローグウィズデッド』に登場するキャラクターの1つ。光属性の攻撃と馬に乗った機動力を武器とする。
──あの馬の走り方は凄く写実的だと思うんですけど、何か参考にされたんでしょうか。
玉ねぎ修字さん:
YouTubeでいろいろな馬の走る動画を見て、それを元にコマを割っていくということはしていましたね。あまり関係ないんですけど、車載動画じゃなくて「馬載動画」みたいなジャンルがあって、馬に乗ってる目線のドラレコみたいな動画で面白かったですね(笑)
──ウマレコですね。では、かなり現実の動画も参考にされてると。
玉ねぎ修字さん:
そうですね。ドット絵なので最終的には凄くデフォルメしていますけど。ゲームのコンセプトとして割と硬派な感じにしたいというのがあって、リアルなモーションを作りたいとは思っていますね。
──作っていて大変だったキャラクターはありますか。
玉ねぎ修字さん:
キャラクターというかコンセプトの話になっちゃうんですが、通常兵士のリファイン作業が入ったことがあって。『ローグウィズデッド』はもともとkoheiさんが個人で作られたゲームだったので、Unityのアセットを使っていたんですけど、あるときそのうちの10体くらいのデザインをリファインすることになったんです。
すでにゲームを運用してしばらく経っていたので、ユーザーさんが遊んで慣れ親しんでいた兵士を、その面影は残しつつオリジナルで新たにデザインすることになって……「ここのラインは残そう」とか、koheiさんとかなり議論しながら作業しました。
元はアンデッドアーチャーという兵士がいたんですけど、それは結構ガラッとデザインを変えて「ウォーターエルフ」という兵士にリニューアルしたんですね。もともとモンスターのアセットからデザインを取ってたし、ちゃんとした人間型というかエルフみたいなのに変えましょうか~という話になったんです。でも変更後に「前のデザインの方が良かった」というユーザーさんもいて、申し訳ないなと。そういう風にいろいろ試行錯誤しながらやっていますね。
──『ローグウィズデッド』はチームで運営されていますよね。チーム運営で仕事をすることのメリットや、あるいは苦労みたいなものがあれば教えて下さい。
玉ねぎ修字さん:
先ほども言いましたが、やはり議論の中でアイディアが膨らんでいくところですね。誰か1人が出したテーマに対して、皆が話すことで奥行きが出てくる。議論が好きなメンバーが多いので、ミーティングも毎回白熱しますし。僕1人では思いつかないようなことがどんどん出てくるのが、チームで動く面白さだと思いますね。
──ミーティングは毎回、長引いてますよね。
玉ねぎ修字さん:
そうですね。脱線も多くて(笑)もうちょっと整理しなきゃなーとも思います。
──議論の上で、ぶつかる瞬間はありませんか。
玉ねぎ修字さん:
基本ぶつかってますね。koheiさんの「これがやりたい」に対して「大丈夫かな?」っていう(笑)エインヘリアル(※3)っていうシステムを入れた時もまさにそうだったんですけど。運営を強固にしていこうというkoheiさんの意志はわかるんですけど、かなり議論になりましたね。
(※3)エインヘリアル
『ローグウィズデッド』で2023年12月より導入されたシステム。ゲームを進めると解放できる「酒場」を利用し、抽選で強力な兵士を入手することができる。有償通貨を利用することで、より多くの抽選をおこなうことが可能。
──熟慮の上で導入されましたよね。
玉ねぎ修字さん:
そうですね。やはりユーザーさんのリアクションも大きかったです。チームも開発に2~3ヶ月くらいかかりましたし、1周年のセールが重なったり、時期的にも大変でした。
動画、源氏名、金華さば
──ここで、玉ねぎさん個人のお話も詳しく聞きたいなと思います。玉ねぎさんはゲームだけでなく、フォントも作っていますよね。「玉ねぎ楷書『激』」は10万ダウンロードと非常に人気のフォントですが、そもそも、フォントを作ろうと思ったきっかけは何なんでしょうか。
玉ねぎ修字さん:
「たぬき油性マジック」(※4)っていうフリーフォントを、皆さんご存知ですかね。ポップとかでよく見るまさにマジックで書いたようなフォントなんですけど。それを作ったたぬき侍さんが、HPかブログで「フリーフォントの作り方」みたいな記事を書いていて、それを読んだんですよね。そもそもフォントに興味があってそれを読んだのか、それを読んだから興味が湧いたのかはあいまいなんですけど。ともかくそれを読んでこれならできそうだなと思って、フォントを作るソフトを買ってみたって感じですね。
(※4)たぬき油性マジック
普通紙に油性極太マジックで書いた手書き文字から作成した無料日本語フォント。
──フォントを作る先人を見てそれに触発されて、という流れですね。
玉ねぎ修字さん:
そうですね。フォントって自分で作れるんだと思って。武蔵システム(※5)さんの「手書きでフォント」というソフトが非常に簡単でやりやすいんですよ。A4サイズの専用シートに書き込んでスキャンする、という。
(※5)武蔵システム
新潟県に所在する、フォント・外字作成ソフトなどを販売する企業。取り扱いソフトとして、紙に手書きした字をスキャナで読み取りTrueTypeフォントを作成する「手書きでフォント」をリリースしている。
──フォントって1つ作るのにどれくらいの時間がかかりますか。
玉ねぎ修字さん:
あまり数えたくないんですけど(笑)シート1枚あたり大体50文字で、その1枚を仕上げるのに30分か1時間くらいかかるんですが、文字数が6000字なんで……ざっくり80時間、そこからノイズの除去とか細かい作業もあって、って感じですね。極細の筆ペンで書いてます。
──公開後もちょくちょく書き直しされてますよね。
玉ねぎ修字さん:
そうなんですよ。これはゲーム開発でもあるあるだと思うんですけど、最初の方に作った素材のクオリティが納得できなくて。最初と最後で工程が違っちゃったりするし、書き直したくなるんですよね。ここをもっとこうしたら良かった、っていうのが耐えられない。
――そもそも手書きだから、一定のクオリティを保つのが大変ですよね。
玉ねぎ修字さん:
それもありますね。だから筆耕(表彰状などの字を書く仕事)の人なんか凄いと思います、あれは職人芸ですね。
──「玉ねぎ楷書『激』」が広まったきっかけは何だったんでしょうか。
玉ねぎ修字さん:
いや~、自分ではよくわからないですね。凄くバズったということもなく、本当にじわじわと広がったという感じです。
自分のフォロワーに動画投稿系のクリエイターの方が何人かいて、そういう方たちに向けて、和風の勢いあるフォントがあればいいなと思って作り始めたんです。
そもそも「玉ねぎ楷書」には前作があって、もうちょっとシャープな柔らかい印象のフォントを作っていたんです。その後に、もうちょっと激しいものが欲しいねとフォロワーの人たちから聞いて、じゃあ作ってみようかという話になって。それで「激」と付いてるんですけど。
あんまりフリーフォントの楷書体で、勢いのある激しいタッチのものって無いんですよ。昭和書体(※6)さんが出してる『鬼滅の刃』でも使われたようなフォントみたいに有料のものならありますが、フリーでそういうものとなると少ないので、たまたまその隙間を狙えたのかもしれません。
(※6)昭和書体
鹿児島県に所在するフォントメーカー。和風の毛筆書体を中心にラインナップする。
──「玉ねぎ楷書『激』」はとにかく使いやすいし、実際に広告や動画など、いろんな場面で使われていますよね。印象的だった使用例ってありますか。
玉ねぎ修字さん:
一番笑ったのは、新宿のアルタ前で友達と待ち合わせてたんですけど、新宿なんでホストのアドトラックが走ってたんですね。源氏名は忘れたけど「翔、登場!」みたいなのが「玉ねぎ楷書『激』」で、顔写真と一緒に(笑)
──それが目の前をサーッと通ったと。普通に街で見かけるんですね。
玉ねぎ修字さん:
お寿司屋さんで使ってくれてる所があったりとか、スーパーの海鮮コーナーで「金華さば」とかあのフォントで書いてあったり、日常に潜みつつある(笑)最近ではインディーゲーム界隈でも、タイトルとかPVで使ってくれてる場面がありますね。和風な世界観のやつで。
──実際に使われてるのを見ると、やはり嬉しいですよね。
玉ねぎ修字さん:
そういうのは本当に嬉しいですね。承認欲求が満たされます(笑)
仙人修行と教員時代
──玉ねぎさん個人のこれまでのお話も聞かせて下さい。そもそも、子どもの頃はどんなお子さんだったのでしょうか。
玉ねぎ修字さん:
思い返せばとにかくゲームばかりやっていましたね。8歳離れた兄がいて、ファミコンとかPC-98(※7)とか古いゲームが家にあって、よくわからないなりに触ってましたね。物心ついて『ドラゴンクエスト』とかストーリーを追って遊ぶようになって。あと、親戚に変わったおじさんがいて、ゲーム画面を録画して攻略方法を記録したビデオを僕にくれたんですよ。『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』だったと思うんですが。今だと攻略動画って当たり前にありますけど、当時としてはかなり最先端だったと思います。ちゃんとザコ戦とかはカットして(笑)
(※7)PC-98
PC-9800シリーズ。NECが80年代から販売していた16ビット機。ビジネスユースのみでなくPCゲームプラットフォームとしても支持を集めた。
──ちゃんと編集してるんですね! ゲーム攻略ビデオおじさん。
玉ねぎ修字さん:
その凄さもよくわかってなかったんですけど、それを観て遊んだりしていましたね。
──ちなみに子どもの頃は書道はやっていましたか。
玉ねぎ修字さん:
近所に書道教室があって、数年通っていました。ただ、そんなに熱心に打ち込んでた訳でもなく、教室で逆立ちとかしてました(笑)自分の意志で書道をやろうと思ったのはもっと後の、高校に入ってからですね。選択授業で、美術とか音楽などの選択肢の中から書道を選んだんですけど、そこの先生がすごく熱心で話も面白い方で。書道の面白さがわかり始めて、その先生に進路の相談もして。「じゃあ俺のとこ来いよ、専門の大学目指して。しごいてやるから」ということになって。そこからは書道漬けでした。
──高校の何となく選んだ授業がきっかけで、その道に。大学での書道というのは、どういうことを学ぶんでしょうか。
玉ねぎ修字さん:
まず教育大だったので、教職のための講義というのが前提にありまして、書道って国語とセットなんですね。なので国語系の授業と、書道の専門の授業を学びました。書道の歴史であったり、もちろん実技もありますし。
──なるほど、美術系の大学ではなく、あくまで教育系の大学だったんですね。
玉ねぎ修字さん:
ああ、そうですね。美術系の授業もありましたけど、僕が取っていたのは国語と書道ということですね。周りはもう、書を志してる学生しかいなかったです。いろいろ圧倒されましたね。先輩とかも、言い方悪いけど頭おかしい人がいっぱいいました(笑)僕が1年の時の院生の先輩で、凄い勉強もしてるんですけど頭のネジが飛んでる人がいて。急に「玉ねぎくん、山に行こうか」って言われて奥多摩の方まで行って、そのまま川に連れて行かれたこともありました。
──仙人の修行みたいですね……。
玉ねぎ修字さん:
変な人が多かったですね。生協の前でいきなり書道パフォーマンスみたいなことを始めて職員の方に怒られたり。僕が出会った人だけかもしれませんが、書家は変わった人が多かったですね。それもあって「この道は自分には無理かも」とはちょっと思いました。もちろん、書の活動は今もおこなっていますが、武田双雲氏(※8)のように書家一本でやっていくのは自分には向いてないかなあ、と。幸い、教職の道も取っていたので、そっちで食い繋いでいこうと考えました。
先生からも「書は50歳でもひよっ子の世界だから」と言われてたので「じゃあ自分はまだ生まれてもいないのか。ならそれまでは好きにやろう」と思いました。
(※8)武田双雲氏
国内の書家。NHK大河ドラマ『天地人』の題字などを手がけた。
──では、周りの強烈な人に揉まれた結果、教師の道を選んだと。その学生時代の間も、ゲームはやっていましたか。
玉ねぎ修字さん:
めっちゃやっていましたね。ゲームはずっと大好きでした。当時は『The Elder Scrolls IV:Oblivion』(※9)とか洋ゲーに目覚めた時期ですね。ちょうど日本にも入ってきたタイミングで。「PCゲームでこんな面白い作品がいっぱい出てるんだ」と思いましたね。いろいろ遊んでた記憶があります。
(※9)『The Elder Scrolls IV:Oblivion』
『The Elder Scrolls』シリーズの第4作で、2006年にPC版が発売。日本では2007年にPlayStation 3/Xbox 360版が発売された。プレイヤーは「オブリビオン」と呼ばれる異界から襲来する存在から世界を守るために冒険する。プレイヤーの行動がストーリーによる制約を受けない自由度の高さが特徴。
──大学を卒業された後は、国語教員として働いていたんですよね。そのころはどういった生活をされていたんでしょうか。
玉ねぎ修字さん:
とにかく忙しかったです。テニス部の顧問もしていたので、土日も練習や試合があって、って感じですね。でも自分自身は、中高とサッカー部だったのでテニスは全くやったことないんです。なのに学校から「サッカーやってたんだ、じゃあテニス部で」って言われて、「え?」っていう(笑)これは教員あるあるですね。球技やってたんだ、じゃあ、と。まあでも、楽しかったですね。
──学校の先生って、朝早いですよね。
玉ねぎ修字さん:
6時には家を出て7時くらいには学校に着いて、早いと7時半から朝学習で生徒の面倒を見て……今は8時くらいに起きてるんで、もう考えられないですね。
――8時でもroom6社員にしては早い方かもしれませんね。
玉ねぎ修字さん:
8時に起きて、犬の散歩や運動してるんで、非常に優雅な感じがしますね。この話を当時の同僚にしたら、殺意を抱かれると思います(笑)
──やっぱり学校の先生って、凄く大変な仕事ですよね。
玉ねぎ修字さん:
一時は学年主任も兼ねてたので、なかなか大変でしたね。女子校だったのもあって、とにかく平等にプライベートなことに深入りしないように、というのを気をつけていました。そのせいか生徒に「先生って、私たちのこと全然褒めないよね」と言われたことがあって、難しいなと。
──いい思い出というと、何がありますか。
玉ねぎ修字さん:
学校に書道部がなかったんですけど、ある時3年生の子が「書道パフォーマンスをやってメッセージを伝えたい」と提案して来たことがあって。いいじゃんやろうやろう、ということになったんです。後から進路指導の先生には「忙しい時期に何やってんだ」って怒られたんですけど(笑)でもいい思い出になりましたね。受験勉強の合間に、夏休みにも集まって練習したり。ライブでやるのは難しいから、パフォーマンスをビデオで撮影して、それを上映するかたちで見せたんですけど。
で、それを見た2年生の子がえらく感動して「私たちも文化祭であれがやりたい」と言い出して。その年から脈々と、文化祭で2年生が書道パフォーマンスをやるのが恒例行事として定着したんです。歴史と言うと大げさですが「こうやって思いが伝わっていくんだなあ」と思うと、非常にいい体験をさせていただきましたね。
──伝統が生まれる瞬間に立ち会った、と。
玉ねぎ修字さん:
まあ、僕が辞めた時点で無くなっちゃったんですけど(笑)引き継ぐのは難しいですよね。
──教員生活は何年続けられたのでしょうか。
玉ねぎ修字さん:
休職した期間もありますが、9年くらいですね。
──改めて、かなり異色の経歴ですよね。そこからゲーム業界に転職されようと思ったきっかけは何だったんでしょうか。
玉ねぎ修字さん:
今もゲーム業界で続けられているのはroom6に拾っていただいたお陰っていうのがありますけど、転職のきっかけとなったのは体調面のことですね。やはり教師というのはとにかくハードで、自分はその中でもあまり体力の無い方だったと思います。年齢を重ねると体力は減るものの仕事は増える一方で、これは続けていくのは難しいな、と。そこで家族に相談したら「まあ、いきなりラーメン屋やりたいとかじゃない限りやりたいことやってみれば?」と言われまして。
──(笑)
玉ねぎ修字さん:
じゃあ、1年くらい好きなことやらせて貰おうかな、と思って。やっぱりゲームがとにかく好きだったんで、まずすごく簡単なゲームを1つ作って。フリーゲームですけどそれがそこそこ楽しんで貰えて、ひとつ自信が付いたタイミングで、room6が集英社ゲームクリエイターズCAMP(※10)っていう所でドッターをちょうど募集していたんです。
(※10)集英社ゲームクリエイターズCAMP
集英社が運営するゲームクリエイター支援プラットフォーム。自身のポートフォリオ公開やコンテストへの参加などのほか、募集機能を使うことで、開発チームのメンバーを集めることが可能。
玉ねぎ修字さん:
当時は『Horizon』(※11)を開発しているタイミングですね。「このインディーゲーム面白そうだな、room6? 知らないけど面白そうな会社だな」と思って応募したんですよね。その時自分がけっこう偉そうに、インディーゲームでこうしたい、みたいなことを書類に書いてたんです。他の人は、自分の職歴にとってこのようなアドバンテージがある、みたいな個人の野望について書いてると思うんですけど、僕はもっと、インディーゲーム界をこうしたいみたいな大きなことを書いてたんですよ(笑)そういうところをkoheiさんが面白がったんじゃないかと。
(※11)『Horizon』
koheiさんが2022年ごろまでroom6で開発していたRPG。のちにプロジェクトのかたちを変え、『ローグウィズデッド』のルーツの1つとなった。
──ちなみにドット絵自体はいつ頃から始めたんでしょうか。
玉ねぎ修字さん:
趣味のレベルですけど、大学生の時からぼちぼち描いてましたね。(room6は)よくこんな素人を採用したなと今なら思いますが(笑)
――room6としては、玉ねぎさんがアニメーションをしっかり作られていたこと、ゲームを完成させていたところに惹かれたと聞いています。それに加えて人柄の点で、社長とkoheiさんと3人で話した後すぐ採用が決まったとか。
玉ねぎ修字さん:
それは……ありがとうございます(笑)
──玉ねぎさんのこれまでの経歴や幅広い経験は『ローグウィズデッド』でも活かされてると感じますか。
玉ねぎ修字さん:
教員の経験は大きかったと思いますね。どんなところでも、人が集まると教室みたいな空間になるな、と思うんです。開発チームもそうだし、ユーザーコミュニティもそうだし。大勢の人がいて、その中で言いたいことが言える人もいれば言えない人もいたり。そういう状況は学校の教室と似てるなあと思います。
──マネジメント業務についても、教員時代の経験は活きていますか。
玉ねぎ修字さん:
そうですね。意識していることで言うと、環境を良くしたいなということですね。働く上での環境だったり、ゲームを作る環境だったり。僕が教師、特に担任をやっていたときは、教室っていう環境を特に重視していたので。
──それはハードというか、実際の構造的なものなのか、もっとコミュニケーション的なことでしょうか。
玉ねぎ修字さん:
いろんな意味がありますね。例えば教員のときにやったことで言うと……生徒って、授業でなかなか自分の意見を言わないんですよね。思春期特有のものもあるし、教室の空気だったりで。小学生のときのようには、クラスで発言ってしなくなりますよね。そういった中で挙手して発言してくれる生徒って凄くありがたいんですけど、そういう子の方が稀なんです。そうじゃない子の意見を聞くために、授業の感想カードのようなものを書いて貰うようにしてました。とにかく意見が言いやすい方法は何か、ということを考えていましたね。その感想を次の授業にフィードバックしておこなうようにしていましたし。
──なるほど。
玉ねぎ修字さん:
あと、新しいガジェットも好きだったので、双方向授業というものを取り入れていました。『平成教育委員会』(※12)っていうテレビ番組が昔ありましたよね。ああいう感じで、手元で書いたものが教員のパソコンに来て、それを大きな画面に映す、みたいなことができたんです。それも誰が書いたかはわからない、匿名で表示することができたんですよ。そうすると生徒たちも意見しやすくなるんですね。そういうハード面での取り組みも含めて、良い「環境」を作ることは意識していましたね。
(※12)『平成教育委員会』
フジテレビ系列で90年代から放送された教育バラエティ・クイズ番組。小中学生が学習する内容の問題を大人である出演者たちが悪戦苦闘しながら解く内容。回答者が書いた内容がマルチビジョンで表示される形式が特徴。
──『ローグウィズデッド』開発チームでも、何かそういった環境作りの試みはおこなわれていますか。
玉ねぎ修字さん:
発言コストを下げる、ということは凄く意識してますね。誰かが「今ここでこれを言うのは気が引けるな」と思う場面というのは、よく起こり得るので。なるべくそれを言いやすいように、というのはkoheiさんとよく相談しています。
直近の事例で言うと「独り言チャンネル」みたいなのをSlackで作りました。そこは自由に発言していい場所ということで、利用も増えてるのでいい傾向かなと思います。
次はもう少し、通話のハードルを下げたいなと。通話ってどうしても、これを伝えたいという用事があってするものですけど、もう少しゆるく、雑談が自然に出来る環境になればいいかなと思ってます。
──まだまだやりたいことはたくさんある、と。
玉ねぎ修字さん:
ありますね。環境自体変わっていきますし、チームの人数も増えていってますし、いくらでも課題は常にあるので、解決していけるようにしたいですね。
──これから『ローグウィズデッド』チームでやりたいことってありますか。
玉ねぎ修字さん:
「箱モノ」のイベントはやりたいですね。チームというか、個人的な野望ですが(笑)展示会とか、ファン交流のような。
人生を変えたもの
──では最後に、皆さんに聞いている質問ですが、ご趣味を教えて下さい。ただし「残りHP100のときに打ち込む趣味」「残りHP50のときに楽しむ趣味」「残りHP1のときにする趣味」に分けて教えてください。
玉ねぎ修字さん:
面白い質問ですよね(笑)なんだろうな……僕、100だろうと50だろうと、1だろうと、とにかくお酒が好きなんですよね。1だったらぐでぐでに疲れながら酔いつぶれるし、100なら100で気持ちよく楽しく呑んでる。どっちにしろ呑んじゃうんですね(笑)
友人とボードゲームするのも趣味ですね。最近も『Slay the Spire』(※13)のボドゲを4人でやったんですけど、最高の空間でしたね。それもHP関係なく楽しめますが、1なら回復する感じがありますし、100だと脳をフル回転して、HPを犠牲にしてでも楽しむという感じです。
(※13)『Slay the Spire』
原作は、デッキ構築にローグライク要素を組み合わせたデジタルカードゲーム。ボードゲーム版『Slay the Spire: The Board Game』はKickstarterで6億円以上の支援を集めた。日本語版は2024年より一般販売を開始している。
──他に好きなボドゲはありますか。
玉ねぎ修字さん:
結構マニアックなタイトルになっちゃうんですけど『マグノリア』(※14)っていうのが面白いですね。アークライトっていう会社が出してて、そこのゲームはハズレが無いんですけど、特に『マグノリア』はカードゲームとして凄くバランスが良くて。
1戦が30分くらいなので軽く始められるんです。自分のデッキを強くして他の人と戦ってバトルポイントを稼いで、ポイントが一番高い人が勝利という、概要は非常にシンプルなんですけど、そこに戦術・戦略性があって、しかも内政があるんで、戦争に勝たなくても最後に内政で逆転もあり得る、というカタルシスがあるんですよ。
『マグノリア』は終わっても自然とまたシャッフルしちゃうような、何度でも遊べちゃう感じがありますね。ちょっと『ドミニオン』(※15)にも近いけど、それをもっとコンパクトにした感じかもしれません……早口のオタクになっちゃいますけど(笑)
(※14)『マグノリア』
2~5人向けのボードゲーム。プレイヤーはさまざまな種族のユニットを率いて王国を築き、自身に与えられた「3×3」の場に手札のユニットカードを配置することで国を発展させる。
(※15)『ドミニオン』
2~4人向けのボードゲーム。中世欧州の小王国の領主となり、領土を拡張していく。
──ご自身でボードゲームを作ろうと思ったことはありますか。
玉ねぎ修字さん:
仲間内で作りたいねえみたいな話はよくしていましたけど、どうですかね。今はデジタルのゲームを作るのが楽しいので……いつかやりたいなあ、という気持ちはありますね。
──では、ご趣味は「酒」と「ボードゲーム」と。
玉ねぎ修字さん:
そうですね。まあ、デジタルのゲームもですね。映画も好きですが、家族から勧められて観るというくらいで……ハマった作品もありますが。
――去年、インド映画の『RRR』(※16)のナートゥのドットのアニメーションを作って、バズってましたよね。
玉ねぎ修字さん:
ああ、あれは『RRR』の制作陣にも届いたようで、嬉しかったですね。映画が面白くて、200枚くらいのアニメーションを勢いで描いてしまいました(笑)
(※16)『RRR』
2022年に公開されたインドのミュージカル・アクション映画。英国植民地時代のインドで、英国軍にさらわれた幼い少女を救うため、立ち上がるビームと大義のため英国政府の警察となるラーマの友情・使命を描く。劇中で披露されるハイスピードなダンス「ナートゥ」のシーンも話題となった。
──200枚のアニメーションって、作るのにどれくらいかかるんでしょうか。
玉ねぎ修字さん:
仕事が終わってから毎日1,2時間くらい、それを2週間くらい続けたんで、単純に計算して20~30時間くらいですかね。
──それと、これも皆さんに聞いている質問なんですが、人生で自分に影響を与えた作品を挙げてもらっていいですか。
玉ねぎ修字さん:
うーん、まずパッと思いついたのは、ル=グウィンの『ゲド戦記』(※17)ですね。ジブリの映画で有名なファンタジー小説で、小学生の時に図書室で読みました。戦士が旅に出て、みたいな世界観は既にゲームで慣れ親しんでいたんですけど、才能に溺れた主人公が自分の失敗から逃げ続けて……っていうストーリーに、衝撃を受けました。こういうファンタジーの世界もあるんだな、と。今もちょっとひねくれた作品が好きなのは、その影響だと思います。
(※17)『ゲド戦記』
アメリカの作家アーシュラ・K・ル=グウィンが著し、1968年から2001年にかけて出版されたファンタジー小説。
──ヒーローが世界を救う、という王道の展開ではない作品に惹かれるんですね。
玉ねぎ修字さん:
そうですね。人間には誰でも過ちはあるから、そこからどうしていくかが大事だという。その辺りは教師をやっていたことも含め、影響を受けたように思います。
後はマンガですけど、福本伸行先生の作品ですね。『賭博黙示録カイジ』(※18)、『アカギ 〜闇に降り立った天才〜』(※19)など、koheiさんも好きらしいですが。特に『アカギ』のセリフで「オレはこの8000で「後の3巡」を買う……」っていうのがあって、麻雀わからない人には伝わらないかもしれませんけど(笑)要は今の自分の持ち点ですね、苦労して得たものを代償にして、未来の一手を取る、ということですね。
主人公のアカギは天才なので、先を読んでその行動に出るんですけど、僕はそういうことはできないんで、拡大解釈して、今の苦労が後々活きていく場面があるだろう、というような意味で捉えてますね。
(※18)『賭博黙示録カイジ』
福本伸行による漫画。自堕落な日々を過ごしていた主人公カイジが、命を賭けた極限のギャンブルに挑む物語。
(※19)『アカギ 〜闇に降り立った天才〜』
福本伸行による麻雀漫画。伝説の雀士赤木しげるの若き日を描いた物語。
――今の痛みも未来に繋がっていくという考え方ですね。
玉ねぎ修字さん:
もう1つ、それで言えば『ローグウィズデッド』は、僕自身も確実に影響を受けていますね。koheiさんの作品に人生で影響を受けた、とも言えるかもしれない(笑)そこに救われてるし、自分も関われているし。それはありがたいと思いますし『ローグウィズデッド』はもっと広げていきたい。そのお手伝いができればと思ってます。
──最後に『ローグウィズデッド』について、そしてファンの皆さんに一言お願いします。
玉ねぎ修字さん:
アップデートのたびにドキドキするような、常に発展途上みたいなゲームではあると思うんです。厳しいご意見をいただくこともありますが、それに対して僕らもかえってそれがやる気になってるし、ユーザーさんのリアクションが僕らの励みになってます。もっとより良いゲームを届けたい、という思いは常にあるので、これからも応援していただければ嬉しいです。
この記事を書いた人
聞き手:ササン三(room6)
編集:Shoichiro Kotetsu / ササン三(room6)
校正:fukushima(room6)
デザイン:高市(room6)